ご挨拶

日本特殊教育学会第60回大会は、本学会理事会が主催して開催することになりました。理事会主催となりましたのは、第60回という節目の大会であることがひとつの理由です。それに加えて、2大会連続(福岡教育大学・筑波大学)でオンライン開催となり、新型コロナウィルスの感染拡大前とは大会を取り巻く環境が大きく変化したことも、理事会開催の理由となっています。つまり本大会には、新たな環境に対応した大会運営の在り方を探るという使命も帯びています。今後の大会は、対面・オンライン・オンデマンドを組み合わせたハイブリッド型が標準的なものになると予想されます。理事会主催による本大会が、今後の大会開催のひとつのモデルとなるよう準備を進めさせていただいております。

大会のテーマは、「実証性と創造的な対話を通じたSpecial Educationの進展へ」としました。本学会の定款には、学会の目的として、「わが国における特殊教育の科学的研究の進歩発達を図ること」と明記されています。今一度、この目的に立ち戻ると、科学的研究の進歩発達に欠かせないもののひとつは、研究成果における実証性の保証であろうと思います。ただしこの場合の実証性とは、実験や観察等の自然科学的手法に基づく研究成果のみを指し示すものではありません。そのような狭い実証主義は、本学会の特徴である学問領域の多様性・学際性を歪める可能性があります。この場合の実証性、すなわち本大会テーマにおける実証性とは、歴史的事実、先行研究の研究成果、または様々な教育支援現場での実践の成果等も含めて、他者に説明可能な形で収集された知見という幅広いものを意味します。

一方でこれらの「知見」の価値は、それぞれの立場の人にとって、様々であろうと思います。会員それぞれの価値判断は、他者から押しつけられるものではありません。しかし違いを尊重しながらも、お互いの立場や考え等を想像し対話を積み重ねることによって、より普遍的な価値を創造していくことは学会の大きな役割です。新型コロナの感染拡大に伴い、そのような対話の必要性を感じる機会が多くなってきております。学会大会という対話の場の価値を見つめ直す良い機会であろうと思います。本学会大会が、会員皆様の幅広い実証性のある研究知見の提示と、その知見に関する多様な対話により、新たなる価値の創造の契機となることを願っております。

委員長 野呂文行 顔写真

日本特殊教育学会第60回大会 準備委員会
委員長 野呂文行(筑波大学・理事長)